恩原ダム
バットレス。『ダム愛好家にはすぐわかるけど一般の人にはわからない語句選手権』があれば優勝候補間違いなしであろう。バットレスとは建築用語で控え壁、水を受け止める堤体を垂直の壁を建てて支えるダムの形式で、なんと国内には6基しか存在していない。うち2基は歩いてしか行けない富山の深山の中にあるため、気軽な見学もままならない珍しい形式のダムである。
残る4基のうち1基は北海道、2基が中国地方、1基が関東という分布で、関東住みは普通グンマーにある1基である丸沼ダムでバットレス初見となるのだが、実はワタシのバットレス初見は中国地方の2基のうちのひとつ、岡山県鏡野町にある恩原ダムであった。まあ当時は関東に住んでなかったんだが。
写真を見ると何となく廃墟マンションのようで、これ軍艦島の写真ですと言っても信じる人がいるかもしれない。昔の低性能カメラの露光不良のためわかりにくいが、縦の柱のように見えるのは壁で、これでもってダム湖側の斜めの壁を支える構造になっている。人という漢字は人と人が支えあって成り立っている、みたいなもんだ(そうか?)。なんでこんな構造なのかというとコンクリートが少なくて済むということらしい。
思えば重力式以外のコンクリートダム形式は、バットレス、中空重力、アーチ、どれも重力式よりコンクリートが少なくて済むというメリットがあるのだが、今やコストがかかるのは材料より人件費なのだそうな。その他にも工法が複雑だったり耐震性や地盤の問題だったりで今はその形式が選ばれること自体稀になった。かくして日本に新たに作られるダムは重力式とロックフィルばかりなのであった。
そんな古き良き時代を偲ぶってわけじゃないだろうが、この恩原ダムは登録有形文化財に指定されている。グンマーの方のバットレスに至っては国の重要文化財だ。そんな文化的な遺産が今現在も社会インフラとして現役バリバリで稼働していると思うと凄い。
なおこのダムは国道482号沿線にあるのだが、ダム本体を見るには国道から脇道(たぶん町道)へ入る必要があるので注意。
1990年4月見物。
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